【セミナーレポート】ハウステンボスに学ぶ、顧客体験設計と顧客管理(CRM)運用

SEMINAR REPORT
DATE
2026.06.11
共催
ハウステンボス株式会社
福博綜合印刷株式会社

セミナーバナー

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2026年6月11日に開催された共催ウェビナー「ハウステンボス」のEC担当が語る!顧客データを「売上」に変えるCRM運用の現場は、おかげさまで多くの方にご視聴いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。本ウェビナーでは、大手テーマパークであるハウステンボス株式会社のEC運用におけるユニークな戦略と、それを支える福博綜合印刷株式会社の緻密な支援、そして当社GMOメイクショップ株式会社のECプラットフォーム活用について深掘りしました。

オフラインの体験とECをシームレスにつなぎ、顧客満足度と売上を両立させるハウステンボス様のCRM戦略は、多くのEC事業者にとって示唆に富むものでした。ウェビナーに参加できなかった方、内容を振り返りたい方は、ぜひ本レポートをご覧ください。「次回のウェビナーには必ず参加したい」と感じていただけるような、実践的なヒントと成功事例が満載です。

イベント概要

開催日時 2026/06/11 13:00
登壇者 伊瀬 樹里氏(ハウステンボス株式会社)
森田 信彦氏(福博綜合印刷株式会社)
高橋 和夫(GMOメイクショップ株式会社)

本ウェビナーのゴールは「売る側の常識を疑い、想定外を見つけたらチャンスと思え」というメッセージでした。登壇者である当社エバンジェリストの高橋がそう語るように、ハウステンボス様が実践するEC運用は、まさにこの言葉を体現するものでした。一般的なECの常識にとらわれず、顧客の声と行動を深く観察することで、独自の「売れる仕掛け」を次々と生み出してきた秘訣を、各パートで深掘りしていきます。

第1部:ハウステンボスのECとは

まず、ハウステンボス様がEC事業をどのように位置づけ、どのような歴史をたどってきたのかが語られました。ハウステンボス様のECは、現在の物販ECから始まったわけではなく、2012年4月に営業部の予約センターがチケット販売を目的として立ち上げたのが始まりでした。

お客様からチケットだけでなくお土産も欲しいという声が増えたことで、2013年には物販ECが本格スタート。その後、Amazonや楽天などのモールへも出店し、認知度向上を目指しました。しかし、商品数の増加に伴い、商品知識、在庫管理、配送管理などの専門性が求められるようになった結果、チケット販売と物販の運営を切り離し、効率化のため自社ECサイト(GMOメイクショップのエンタープライズプラン)一本に絞る戦略に移行したといいます。

ハウステンボス様がECを運営する目的は、単なる売上拡大だけではありません。伊瀬氏は、ECを顧客満足度(CS)向上の役割を担うツールと位置づけていると説明します。具体的には、以下の3つの目的を掲げています。

  • 「旅アト」の世界観を体験してもらう:来場後のお買い物忘れや、帰宅後もハウステンボスでの素敵な体験を思い出してもらうための接点としてECを活用しています。
  • 園内では手ぶらで楽しんでもらう:チーズやソーセージなどの冷蔵品や、カステラやワインといった重量のある商品は、オンラインで購入してもらい、滞在中は手ぶらでアトラクションや景観を楽しめるようにする「手ぶら導線」を意識しています。
  • 来場体験の延長線上のサービス:EC単体での利益最大化を目指すのではなく、販売する商品のカテゴリを意識的に限定し、ハウステンボスでの来場体験を補完・延長する存在としてECを運営しています。

スライド19 来場体験の延長線上のサービスがEC

📎 スライド19:来場体験の延長線上のサービスがEC

特に「来場体験の延長線上のサービス」という考え方は、何を売るか、何を売らないかの商品選定の大きな判断軸となっています。「場内で販売しているお土産の多くはECでは販売しておらず、ECで展開している商品は場内売店の約14%にとどまる」と伊瀬氏は述べます。すべてがオンラインで買える状態にしてしまうと、現地に足を運ぶ価値が失われる可能性があるためです。ミッフィーやエヴァなどの人気キャラクター関連商品は、著作権や契約の関係上、現地限定販売としているものもあります。

ECで販売するのは、ハウステンボスオリジナルのロゴ商品、景観や花をモチーフにした商品、ワイン・チーズ・ソーセージなど持ち運びに難があるグルメ商品、オリジナルのお菓子など、「ハウステンボスらしさを感じてもらえる商品」が中心です。ECは単なる販売チャネルではなく、来場体験を補完する存在として設計されているのです。

第2部:顧客との接点から生まれた「売れる仕掛け」

次に、ハウステンボス様がどのようにして「想定外のニーズ」を発見し、売上につなげてきたかという、具体的な「売れる仕掛け」が紹介されました。

人気No.1商品がお花である理由

ECでは一般的に「売れにくい」とされるお花が、ハウステンボスオンラインストアで人気No.1商品であることは、参加者にとって大きな驚きでした。特に、5万5000円もするスタンド花が非常に売れているといいます。

その背景には、ハウステンボス歌劇団の存在がありました。歌劇団には熱心なファンが多く、公演への贈り物としてお花を贈りたいというニーズが高まっていたのです。しかし、安全性の観点から外部からの持ち込みは禁止されており、以前はレストランや花屋に個別に電話で注文する手間がかかっていました。この潜在的な「贈答ニーズ」をECで受け付けるようにしたことで、利便性が向上し、お客様の「応援したい」という気持ちに応え、売上を大きく伸ばすことに成功しました。

伊瀬氏「このテーマパークとエンタメが融合してる施設ならではのECの特需かなと思ってます」

当社高橋は、この事例について、特別なコンテンツを持つ施設であれば、ユーザーの「推し活」ニーズに応えるECサイトの設計が有効であると解説しました。

ギフト券が自動車学校のノベルティに

もう一つの意外なヒット商品は「ギフト券」でした。当初は家族や親しい人へのプレゼントを想定していましたが、社内の営業担当者が「これはいける」と嗅覚を働かせた結果、近隣の自動車学校がノベルティとして大量購入するようになりました。教習生が入校するとギフト券がもらえ、ハウステンボスへの来園にもつながるという、双方にとってWin-Winの関係を構築できたのです。

伊瀬氏「その着眼点がすごいなと、僕らも気づかなかったところで」

当社高橋は、ホテルや音楽コンサートなど、多くのECサイトでギフト券の売上が高いことに触れ、法人向けのニーズが高いことを指摘しました。 フィジカルななギフト券は、ご高齢の方への贈呈やゴルフコンペの景品など、多様なシーンで需要があるといいます。

修学旅行のお土産は「親がECで事前に購入」する時代へ

修学旅行のお土産購入にも大きな変化が見られました。以前は学生がお小遣いの範囲内で現地で購入するのが一般的でしたが、ECサイトのコメント欄に「修学旅行に合わせて届けてほしい」という声が増えたことで、親御さんが事前にオンラインで購入するケースが急増していることが判明しました。

親御さんからすると、子どもには現地で思い出づくりに集中してほしいという思いがあり、また、子どもが選ぶお土産とは別に、ハウステンボスらしいお土産を選んで祖父母や職場にも渡したいというニーズがありました。これにより、子どもが購入する際の予算上限がなくなるため、購入単価が大幅に向上し、顧客体験と売上増を両立しています。

スライド32 売る側の常識と使う側の常識は一致しない

📎 スライド32:売る側の常識と使う側の常識は一致しない

これらの事例から見えてくるのは「売る側の常識と使う側の常識は一致しない」という教訓です。ハウステンボス様では、お客様の声や購入データを元に、「お土産ランキング特集ページ」を制作。王道土産、長崎土産、配り菓子、修学旅行生向け文房具など、用途別にランキング形式で紹介することで、お客様の商品を探す手間を省き、スムーズな購買体験を提供しています。

ハウステンボス様では、社内イントラで月別のお客様の声(褒め言葉や改善点)を全社員が閲覧できる仕組みを構築し、積極的に現場の声に耳を傾ける文化があります。伊瀬氏自身も、歌劇の初日や千秋楽には大劇場に足を運び、お客様の客層やニーズを肌で感じ取ろうとされています。このように、お客様の行動から価値を発見し、「なぜ」を深掘りする思考の質が、想定外のニーズを発掘する源泉となっているのです。

第3部:オフラインとECをつなぐ運用設計

テーマパークのようなリアルな接点を持つ企業にとって、オフラインの来園者をどうECサイトに誘導するかは大きな課題です。ハウステンボス様は、この点でも多くの試行錯誤を重ねてきたといいます。

QRコードは効果なし?効いたのは「小さな積み重ね」

まず、効果が薄かった施策として「QRコードによる送客」が挙げられました。例えば、園内で開催されるワイン祭りで、オンラインストアでもワインが購入できることをPRするために各ワインにQRコードを設置しましたが、ほとんどアクセスにつながらなかったといいます。

森田氏「どちらかというと買うよりも飲む方のニーズの方が多かったかなっていう気は。すごくして、その店舗で読み取って買うっていうシーンが、やっぱりちょっと創出できなかったのかなってのを聞いて思いました」

スライド35 QRコードによる送客施策はほぼ効果なし

📎 スライド35:QRコードによる送客施策はほぼ効果なし

福博綜合印刷の森田氏が分析するように、その場の「飲みたい」という動機と「買いたい」という動機が一致しなかったことが要因でした。

一方で、効果があったのは「小さな積み重ね」でした。ユニークユーザー数(UU)が前年比120%で推移している主な要因は以下の3つです。

  • チラシの同梱:初回購入のお客様に商品発送時、「メルマガ登録しませんか」というチラシを同梱。地道な施策ですが、オンラインストアの会員登録数、リピート購入者の増加に大きく貢献しています。福博綜合印刷の森田氏は、お客様が商品を受け取り箱を開ける「一番テンションが上がったタイミング」にアプローチすることの重要性を強調しました。
  • 季節商品の案内:X(旧Twitter)やInstagramなどのSNS、メルマガを通じて、新商品や季節のお花の情報を継続的に発信しています。単に商品を売るだけでなく、「来園時の感情を思い出してもらう」ことを重視した情報発信が功を奏しています。
  • お客様の感情を想起:伊瀬氏は「ハウステンボスに来たかのようなオンラインストア」を目指しており、旅前・旅中の感情が旅後も続くような体験をECで提供することを意識しています。

SNSのバズが来園・購入につながることも

SNSの活用は、ハウステンボス様のEC事業に予期せぬ大きな影響をもたらすこともあります。例えば、発売当初はほとんど売れなかった「チューリップのポーチ」が、あるユーザーがぬいぐるみを収納する独自の活用法をSNS(X)で発信したところ、一気にバズり品薄状態になりました。

伊瀬氏「これ狙った施策というわけじゃなくて、もう完全にラッキーパンチでしたね、これは」

コロナ禍の休園時には、賞味期限が迫るお菓子や食品をオンラインストアで割引販売したところ、SNSでの拡散により食品ロスを大幅に削減できただけでなく、お客様からの温かい応援メッセージも多数寄せられたといいます。こうした経験は、ハウステンボスが日頃からお客様の心を掴み、共感を呼ぶコミュニケーションを積み重ねてきた結果であると高橋は指摘しました。

組織の制約を「勝ち筋」に変える

ハウステンボス様のような大規模組織では、事業推進にあたって多くの制約が存在します。伊瀬氏は、主に以下の3つの制約を挙げました。

  • 値引きできない
  • 商品部がEC兼務
  • 店舗と在庫共有

これらの制約を、ハウステンボス様はどのように乗り越えてきたのでしょうか。

  • 「値引きできない」→「体験価値を伝える戦略」:価格競争ではなく、ハウステンボスでの唯一無二の体験価値をECで伝えることに注力しています。
  • 「商品部がEC兼務」→「企画〜物流まで一気通貫」:商品開発チームとECチームが同じ商品部に属しているため、新商品情報がすぐに共有され、企画から物流まで一貫して把握できます。これにより、スピーディーな商品展開や効果的な販売戦略が可能になります。
  • 「店舗と在庫共有」→「店舗クルーとの柔軟な連携」:ECと店舗で在庫を共有しているため、店舗クルー(スタッフ)との良好な関係構築が不可欠です。伊瀬氏は、日頃から密なコミュニケーションを取り、棚卸しなどの大変な作業も一緒に行うことで、相互理解と協力体制を築いていると強調します。これにより、ECでの大口注文時にも快く在庫を分けてもらえるなど、円滑な運用が実現しています。

スライド42 店舗クルーとの共存共栄

📎 スライド42:店舗クルーとの共存共栄

福博綜合印刷の森田氏も、ハウステンボス様の商品部メンバーがECの打ち合わせ後にレジ打ちをしている様子を見て驚いたと語り、EC担当者が現場の接客まで行うことで得られる知見の重要性を指摘しました。データだけを見るEC運用に陥りがちな中、現場に立つことでお客様の声や商品のリアルな動きを把握し、施策の質を高めているのです。

まとめ:日々の積み重ねが「成功の循環」をつくる

本ウェビナーを通じて、ハウステンボス様のEC運用が、一般的な通販事業とは異なる独自の役割と哲学を持っていることが明確になりました。売上最大化だけを追求するのではなく、現地での「体験価値」を最優先し、その延長線上にあるサービスとしてECを設計する姿勢が、成功の根底にあるといえます。

伊瀬氏は、EC事業を「単に商品を販売するのではなく、人と人をつなぐ役割」と表現しました。この考え方こそが、歌劇団へのお花の贈答ニーズや、修学旅行のお土産を親が購入するニーズといった「潜在的な顧客の思い」を掘り起こし、お客様の共感を呼ぶサービスを支持される理由です。

ハウステンボス様が実践する成功の循環モデルは、以下の4つの「質」を高めることで生まれます。

  • 関係の質:店舗クルーとの柔軟な連携(商品部・店舗・物流が同じチームに)
  • 思考の質:お客様の行動から価値を発見(想定外を「なぜ」で深掘りする)
  • 行動の質:チラシ同送・季節案内の継続(接点を丁寧につなぐ仕掛け)
  • 結果の質:リピート購入・潜在ニーズの発掘(来園時の感情を呼び起こす売上)

この循環の出発点となるのが、店舗クルーとの良好な関係性です。そこが確立されて初めて、お客様の声を拾い、前向きな施策を考え、実行に移すことが可能になります。ECは一人ではなく、様々なセクションが関わって成り立っているという認識のもと、「わがままを言わず、みんなで仲良く」運営する姿勢が、ハウステンボス様のEC成功の揺るぎない基盤となっているのです。

ハウステンボス様のように特殊なアセットを持つ企業だけでなく、どんなEC事業者も、お客様の行動を深く観察し、現場の声に耳を傾け、地道な施策をコツコツと積み重ねることで、顧客体験を向上させ、売上を伸ばすことが可能です。本レポートが、皆様のEC事業における新たな視点やヒントとなれば幸いです。